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たびのたびのたび
旅の旅の旅
正岡 子規
「日本」1892(明治25)年10月31日から四回
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 5,120 字 · 10 页
起き出でて簀子の端に馬と顔突き合わせながら口そそぎ手あらいす。
肌寒や馬のいなゝく屋根の上
かろうじて一足の草鞋求め心いさましく軽井沢峠にかかりて
朝霧や馬いばひあふつゞら折
馬は新道を行き我は近道を登る。小鳥に踏み落されて阪道にこぼれたる団栗のふつふつと蹄に砕かれ杖にころがされなどするいと心うくや思いけん端なく草鞋の間にはさまりて踏みつくる足をいためたるも面白し。道は之の字巴の字に曲りたる電信の柱ばかりはついついと真直に上り行けばあの柱までと心ばかりは急げども足疲れ路傍の石に尻を掛け越し方を見下せば富士は大空にぶら下るが如くきのう過ぎにし山も村も皆竹杖のさきにかすかなり。
沓の代はたられて百舌鳥の声悲し
馬の尾をたばねてくゝる薄かな
菅笠のそろふて動く芒かな
駄句積もるほどに峠までは来りたり。前面忽ち見る海水盆の如く大島初島皆手の届くばかりに近く朝霧の晴間より一握りほどの小岩さえありありと見られにけり。
秋の海名も無き島のあらはるゝ
これより一目散に熱海をさして走り下りるとて草鞋の緒ふッつと切れたり。
草鞋の緒きれてよりこむ薄かな