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りょかくきじけん

旅客機事件

大庭 武年

「探偵」駿南社、1931(昭和6)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,209 字 · 21 页

青空文庫

勿論、飛行中君が便所に行ったとは嘘で、秀岡氏と面談する為めに行ったのだろう」

「…………」三枝は暫く黙然としていたが、あきらめたように口を開くと「或いはそうかも知れません」と悄然と言って、「然し、その嘘は事件が紛糾するのを怖れて口にした迄のものです。何故となれば、私のした事と今度の事とは全く無関係な筈なんですから。実は今朝D飛行場で顔を合わす迄、私は秀岡が乗客になっているとは知らなかったのです。私は秀岡の顔を見ると赫となりました。胸の中が沸るような昂奮に襲われて了ったのです。秀岡も駭ろいていたようです。で、私はさきにも言いましたように、秀岡に対しては非常な怨みを持っていましたし、又困窮している私共一家の為めに、法律上は兎も角、経済的に相当な事をしてもらえる立場にあったので、その事を、此の顔を合わせた機会に一応口にしてみようと考えたのです。所が、私が客室に行きますと、幸か不幸か今一人の客、綿井氏が便所にでも行ったものと見え、いないのです。で、つい周囲に気兼ねもなく、秀岡にひらき直って話し出したのでしたが、秀岡は案の定、私の昂奮をせせら嗤うのみで、ろくに相手にもなろうとしないのです。