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りょかんについて
旅館について
山本 周五郎
「朝日新聞 PR版」1965(昭和40)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,912 字 · 16 页
と若い女中さんが云った、「あたしいそいで取ってくるわ」
「冗談じゃない」私は驚いて制止した、「もうすぐ汽車が来るんだ、まにあやしないよ」
「大丈夫まにあうよ」と彼女は駆けだしながら云った、「すぐだからね」
美しい女主人は、あのとおりよ、とでも云いたげに微笑していた。その女中さんはタクシーで走り去り、汽車が駅へはいって来たとき、浴衣の包みを持ち、息せき切って駆けつけたのであった。
「二人が同伴しているからよかったが」と列車が動きだしてから私は云った、「――そうでなかったらこんな話を信じる者はないでしょうな」
二人の同伴者は同意した。
旅館に限らず、ビルディングも工場も、酒場も住宅もマンモス化してきた。人間の生活も集団化し、個人の感情は集団の力に屈服して、一億右へならえというふうになるらしい。ぞっとするような傾向であるが、それに異をとなえようとすると食用蛙にまで「ばかやろ」とか「ざまみろざまみろ」などと笑われるのである。御用心、御用心。
「朝日新聞 PR版」(昭和四十年一月)