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りょかんについて
旅館について
山本 周五郎
「朝日新聞 PR版」1965(昭和40)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,912 字 · 16 页
美しい女主人と、女中さんが二人、座敷の数も五つか七つくらいらしい。女主人も女中さんも、まるで久しい馴染のように、少しも形式ばらず、押しつけがましくもない。殆んど家族同様の扱いかたで、しんからくつろぐことができた。
「おかみさんは先月ハワイへいって来たのよ」と若い女中さんの一人が云った、「あたしその飛行機が墜落するようにって祈っちゃったわ、飛行機が墜落すればおかみさんは死んじゃうでしょ、そうしたらあたしこのうちを乗っ取っちゃうの」
訛りがあるので正確にはわからないが、反問してみたうえで、言葉の意味が誤りでないことを慥かめた。尤も彼女は、女主人の縁辺にでも当るような立場らしかったが、初対面の男客三人に向かって、そういう冗談をすらすら云えるということは、彼女の性分のよさを示すと同時に、その宿ぜんたいの気風をあらわすように思え、私たちは大いに笑ったものであった。
明くる日、南座をみて帰京したのだが、駅まで女主人とその些かファニーな女中さんが送って来た。私はふと、寝衣に着た浴衣がたいへん気にいったので、あれを貰って来ればよかったと、つい口をすべらせた。
「あら、それならそう云えばよかったのに」