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ひびのうつり

日々の映り

宮本 百合子

「文芸集団」(名古屋帝国大学医学部学生の同人誌)、1939(昭和14)年第1号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,131 字 · 16 页

青空文庫

「田舎へかえっていたんでしょう?」

「もうかえってますよ、一つきいて見ようか」

「もし出来たら、いいわねえ」

「とにかくハガキ出してみましょう」

乙女のなくなった良人は、ひろ子たち仲間の画家であった。その人がなくなった前後から乙女は特に友子たちに近づいて暮し、その友情に良人への愛着をもこめて、銀座辺の麻雀クラブのエレベータア係として働いて過す、気の張った、それでいて単調な毎日の張り合いにしていた。

それが乙女のためにもわるくない思いつきというように、

「私はわるくないと思うんだけれど……あのひとも今のところはやめたがってもいたんだし」

と云ったが、

「ああ、でも……どうかな」

友子はすこし声を落して、

「どうもこの頃何かあるような風も見えるんだけれど……」

それも自然と思われて、ひろ子は、

「まともないい人みつけさせてやりたいわね」

と親身な眼を向けた。友子は直接それには答えず、

「とにかくハガキ出してあなたのところへじかに返事に行くように云ってやりましょう」と云った。

二三日して、北国生れの乙女が、特有のゆったりしたおとなしい声で、

「ごめんなさい」

とたずねて来たとき、ひろ子は、用向きよりもその人のなつかしさ、その人と経て来た生活のなつかしさに亢奮をかくせなかった。