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ひはかがやけり

日は輝けり

宮本 百合子

「中央公論」1917(大正6)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 76,445 字 · 152 页

青空文庫

「畜生! 気をつけやがれ!」

俥夫が罵倒するにつれて、「間抜けな野郎だなあ」と笑った乗っている男の大きな腹が、庸之助の目の前で、戦を挑むように、膨れたり凋んだりした。

気が立っていた庸之助は、このかさねがさねの侮辱にムッとした。

「何だと? 今何んてった! 畜生もう一ぺん繰返して見やがれ!」

と叫ぶや否や、突然梶棒を俥夫ぐるみ、力一杯突き飛ばした。

ヨロヨロとなって、危く踏み堪えた俥夫は、また二言三言悪口を吐いた。客も「何が出来るものか!」というように、負けずに愚弄するのを見ると、庸之助の病的な憤怒が絶頂に達した。激情で盲目になった彼は、もう口で喧嘩をしている余裕がなくなった。握りかためた両手の拳固が、二人の男の頬桁に、噛みつくように飛んで行った。生活に疲れていた庸之助の頭は、全く常軌を逸してしまった。真黒になって、手あたり次第擲ったり蹴ったりしたのである。忽ち人が黒山のようになる。或る者が交番へ走る。巡査が来たッ! と云う声が群集の中から起ると、今まで同等な敵として、庸之助を、同じくらい夢中になって撲ったり、突飛ばしたりしていた俥夫は、サット手を引いた。