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ひめくり
日めくり
壺井 栄
「群像」1963(昭和38)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 16,884 字 · 34 页
この半月もの間、水やジュースしか通らなかった重病人が、急に鉄火巻など食べてよいのだろうか、ということよりも、昔からいわれている、危機のせまった病人に、こうしたことがよくあるということに、さしせまったものを感じたのだ。だが、ひろみはあまり気にしていない様子で、
「なんだか、朝からいきごんでいるのよ。珍しく歯をみがいたり、自分でいい出して下着をとりかえたり」
すると山形もちょっと調子にのったように、
「久しぶりに、固いめしをくいましたよ」
「そう。うまかった?」
「うまくはないですがね」
「いいの、急にそんなことして」
「大丈夫ですよ。医者はなに食ってもいいって、まるで匙なげた病人にいうようなこといってるから、食ってみたんですよ。うまくはないけど、その気になれば食えましたよ。アイスクリームもたべたし、紅茶も二はい、かな。三杯かな」
やっぱり目をつぶっていっている。元子は目顔でひろみを廊下へ誘い出した。文吉には汁粉屋へいくとささやいた。
「なんだか心配よ。気をつけなさいよ」
「そうお」
「食慾が出てきたなんて思ったら、大まちがいよ」
「わかったわ」
どこまでわかっているのか、さしせまったものなど感じられない様子でひろみはうなずきはしたが、夫と一しょに、鉄火巻を食べた喜びの方が大きいようにみえた。