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にちげつさま

日月様

坂口 安吾

「オール読物 第四巻第七号」1949(昭和24)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,162 字 · 23 页

青空文庫

やがて女が一風呂あびて現われた。その時はもう王子君五郎氏は、この家を立ち去っていたのである。

私は、然し、女が私の横へねても、監視されているようで、ちょッと気持がすくんでいた。

「王子君は、日月と云ったね。日月とは不思議なことを云うものだ。あの人は、そんなことを、時々言うかね」

と、私は女にきいた。その時である。まるで、思いがけなく、ゼンマイのネジが狂ったように女が笑いだした。決して音のきこえる筈のない冷静な懐中時計が、突如として、目覚し時計となって、鳴り狂いはじめたようなものである。

「あんな男のいうことマジメにきいて、何、ねぼけてんの。気違いって、あの人が気違いじゃないの。女装したりしてさ。変態なら分るわよ。変態でもなんでもないくせに女装するなんて、頭のネジが左まきのシルシにきまってるわ。私が自分のモモにホリモノをしただの、そのホリモノをえぐりとったのと、あの人が知っているわけがないでしょう。みんなあの人の妄想よ。ほら、見てごらんなさい。私のモモに、ホリモノだの、えぐりとった傷跡だのがあって」

女は私にモモを見せた。まったく、何もなかったのである。