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にちげつさま

日月様

坂口 安吾

「オール読物 第四巻第七号」1949(昭和24)年7月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,162 字 · 23 页

青空文庫

デマの結果が、こういう珍妙な事実になって現われようとは。

「麻薬って、君、モヒのことかい」

「そうです。イエス。エッヘッヘ」

彼は又、頭をかいた。クスリと笑いつづけている彼の目に、妙に深々とした愛情がこもっていた。

「私自身は、これを用いておりませんが、よく知っているんでございます。中毒して入院する。入院中もぬけだして、ちょッと、用いにおいでになるもんですなア。骨身をけずられるようだてえ話を、マア、私もチョイ/\耳にしておりますんで、先生なんざ、愚連隊というものじゃなし、仲間のレンラクもなく、お困りだろうと、エッヘッヘ。そうなんでございます。この精神病院なぞと申しまして、鉄の格子に、扉に錠など物々しくやっておりますが、私共の方では、お茶の子なんでございます。みんなレンラクがありまして、ワケのないことでござんすよ。鉄格子から注射器と薬を差入れてやりゃ、なんのこともありませんや。愚連隊の中毒患者は、病院の中でいかにも神妙に、みんな用いておりますんで。エッヘッヘ。文明でござんす」

「へえ。文明なもんだねえ」

と、私もまったく感服した。そして彼の厚意に、まことに極みなく清らかなものを感じて、ホロリとするほど心を打たれたが、それだけに、デマにすぎない実情を事をわけて説明するのに、甚しく心苦しい思いであった。