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にほんにおけるくりっぷんじけん
日本に於けるクリップン事件
谷崎 潤一郎
「文藝春秋」1927(昭和2)年1月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,290 字 · 21 页
というような記事が隅ッこの方に小さく出ていたのを、読まれた方もあるであろう。その行李は相州鎌倉扇ヶ谷某氏所有地の雑草の中に遺棄されていて、発見されたのは八月十五日の朝であった。届出によって警官が中を改めると、一箇の等身の人形が出て来た。それは針線や木の心の上に紙や布を巻きつけた、しろうとが作った拙い人形で、案山子に近いものであったが、顔だけは念入りに出来ており、断髪の鬘を冠っていた。警官はその顔だちと、断髪の頭と、着せられてある派手なパジャマの模様とで、女の人形であることを知った。そうして最初は、多分横須賀の水兵か何かが、船中の慰みに使ったのだろうと見当をつけた。なぜかというのに、その人形にはなまめかしい香水とお白粉の匂いが沁み込ませてあり、行李の蓋を開けたとたんにそれがぷーんと警官の鼻を打ったのであった。けれども一つおかしいことは、人形の頸部に、なんらかの凶器で深く喉笛を抉ったらしい傷痕があった。しかも一度でなく、抉ってはまたその穴を直し直しして、幾度もそれを繰り返したものに違いなかった。警官がそこを更に綿密に調べるに及んで、ほんの刺身の一と切れぐらいな、乾燥した肉の塊が傷痕に附着していた。