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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
春三たび
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,829 字 · 25 页
二
二
伊緒は十七歳だった。美濃のくに大垣藩の戸田家で、徒士ぐみ番がしらを勤める林八郎右衛門のむすめに生れ、正之進という兄と、伊四郎という弟があった。かの女はみめかたちのすぐれて美しいうまれつきで、十四五になるともう諸方から縁談がおこり、ぜひと望んでくるかなりな権門もあった、けれども八郎右衛門は頑固に頭を振りつづけた、「みめかたちで望まれるものは、やがてまたみめかたちで疎んじられる、容貌はすぐに衰えるもので、そのような不たしかなものに眼をつけるのは、たのみがたい相手だ」そういう父の言葉をいくたびも聞くうちに、伊緒は、ひところ自分の美しいうまれつきを恥かしくさえ思ったほどであった。八郎右衛門はかの女が十七歳の誕生を迎えると、かねて眼をつけていたもののように和地伝四郎へ縁づけたのであった。
家中の人々は眼をみはった、和地は二十石あまりの徒士だったし、さしてぬきんでたひとがらでもない、老母と病身の弟があって家計も貧しく、御恩田を耕してほそぼそとくらしていた。御恩田というのは藩主戸田氏銕が設けたもので、城下近くの荒地をひろく開墾し、そこで微禄の士たちに農耕をさせるのである。