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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
春三たび
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,829 字 · 25 页
出来たものなりは五分を上納するだけで、あとは自分のものになる定めだったから扶持のすくない者にとってはありがたい恩典だった。もちろんそれは単に微禄の士を救恤するというだけではなく、武と農とを合致させることによって質実の風をやしなう意味もあったのであるが、しかし一般には「御恩田持ち」というと軽くみられるのが避けられない事実であった、伊緒の父八郎右衛門はその軽薄な眼をおどろかしたのである。輿入れをするまえ八郎右衛門はむすめに向って諄々と説いた。――武士だから扶持を頂いておればよいということはない、泰平になれば御奉公にもいとまがある、太刀をもつ手に鍬をとるのもさむらいの道だ、いにしえはみなそうだった、鍬をにぎって五穀を作り、太刀をとっては国をまもる、これが古武士のすがただった、そしてそういう生きかたのなかにこそ道のまことが伝わるのだ、よいか、これも篤と心得ておけ。伊緒には父の気持がよくわかった、父はかの女に栄達をさせようとは考えなかった、安楽な生涯をとも望まなかった、まことの道にそって、おのれのちからで積みあげてゆく人生を与えてくれようとしたのだ。
和地家へ嫁してきて、生れてはじめて農事に手をつけたとき、だから伊緒はかえって生き甲斐をさえ感じた、――すべてはこれからだ。