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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

おもかげ

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,412 字 · 25 页

青空文庫

その席には多くの家臣も列してひじょうな好評だった。それは藩邸における彼の才能と位置をきめるものだったが、明くる年の三月、昌平坂学問所へ入黌すると同時に、秀才とはどういうものかということを知り、またその数の少ないことを知って心からおどろいた。

「お母さま、ほんとうに世間はひろいものですね」

出府してからも毎夜のきまりになっているおもかげとの対話に、彼はおとなびた口ぶりでよくそう囁やいた。「勝山藩で頭角をぬくくらいはたいしたことではありませんでしたよ、けれど弁之助は負けはしません。いまにきっと昌平黌でも人の上に出てみせます、お約束しますよ」

母のおもかげはあのころと同じように明るい眉をして、澄みとおった美しい眸子で頬笑みかけて呉れた。彼はその頬笑のまぼろしに慰さめられ、気づけられるように思ってひたむきに勉強した。

こうして弁之助は十五歳になった。そしてその春の学問吟味には群をぬく成績をみとめられ、仰高門講堂で講書をすることを許された。仰高門の講義は学生のほか一般の処士町人らにも聴講させるもので、ここで講書するようになれば学問所の学生としてはいちにんまえなのである。