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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
おもかげ
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,412 字 · 25 页
五
きびしすぎる叔母から逃げて母の記憶をよびおこしてから、自分のほんとうの勉強が始まったのだ。――この事実をお知りになったら父上はどうお考えなさるだろう。いっそ申上げてみようか。彼はそう思ったが、やはり黙って脇のほうを見ていた。
叔母からはおりおり音信があった。師山の大師堂へ紅葉を観にいったとか、九頭竜に下り鮎がみえたとか、鶴が峰にもう雪が積りだしたとか、故郷のやまかわと季節のうつりかわりを記したものが多かった。江戸は繁華でこそあるがどこもかしこも家やしきばかりで眼をたのしませる風景の変化もなく、降ればぬかり照れば埃だつ道や、往来の人びとのけたたましく罵しり喚くこえなど、すべてがうるおいのない暴あらしい感じだったから、おとずれの文字に写された故郷の風物は云いようもなくなつかしかった。けれどもどういう気持で叔母がそれらの手紙を書いたかということは考えてもみなかったし、叔母に対してなつかしいと思うようなこともなく、手紙は貰いながらいちども返事は出さずにしまった。
五
由利の云ったことは誇張ではなかった。彼は十二歳の春に御主君飛騨守の御前に召されて大学の講義をした。