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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
笄堀
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,409 字 · 23 页
広書院へ伺候すると、いつものとおり甲冑をつけた真名女が、ちゃんと上段の床几にかけていた。靱負之助は内密の言上だからといって、侍女たちの遠慮をねがった、真名女は手をあげて侍女たちをさがらせた。
「今日かような品が、壕つくりの場所よりみいだされました」
靱負之助は笄をさしだしながら、上段のきわまで膝をすすめた。
「かれらのなかに、かつておそば近く仕えた者がおり、おかたさま御用の品と申しております、その者のおぼえ違いでござりましょうや、それともおかたさま御用のお品にござりましょうや」
「…………」
「もし御用の品なれば、家臣どもと苦労をおわかちあそばすおぼしめしでござりましょうが、それはいささかお考え違いと申さねばなりませぬ、おかた様は忍城のおんあるじ、さようなかるがるしいおふるまいは」
そこまで云いかけて、靱負之助はあっと眼をみはった、兜の眉庇のかげにみえたのは真名女ではなかった、真名女によく似たうるわしい面ざしではあるがそれは甲斐姫であった。姫が母に代って甲冑をつけていたのであった、
「これは……」
靱負之助はつぐべき言葉を知らなかった。そしてかれには今、家臣の妻たちといっしょに土まみれになって、壕を掘っている夫人の姿がみえるように思えた。