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にほんふどうき

日本婦道記

山本 周五郎

小指

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,032 字 · 22 页

青空文庫

非常に惜しがられたし、事情によっては少し待ってもよいからといわれたくらいである。両親には未練があったが、平三郎が承知しなかったので、結局は破約ということにきまった……。それからの日々、なお女が八重に代ろうというのを「これを機会に自分でやりますから」といって、彼は身のまわりの事すべてを独りでやりだした。長いあいだ人まかせにしていたし、性分というものがすぐ直るものでもないので、気持の張っているうちはよかったが、少し経つとまた「袴」のようなことがしばしば起った。そういうとき彼の面にうかぶ苦笑ほど寂しげなものはなかった。

――八重、またやったよ。

心のなかでそう呟きながら、彼はよく手を止めてぼんやり何処かを見まもる、「お袴はいけませんですよ」

という八重の顔がふと眼にうかぶ、そこで彼はこう呟く、

――おまえ、心配じゃないのか。

こうして日が過ぎ月が去った。明くる年の秋に、鹿島主税が別の縁談をもって来た。平三郎は笑っているだけだった。それまで息子のようすをそれとなく注意していたなお女は、その笑顔を見て堪らなくなったとみえ、「まだ忘れることができないのか」と訊ねた。