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にほんふどうき
日本婦道記
山本 周五郎
二十三年
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,170 字 · 22 页
四
領分境まで見送りながら、多助夫妻は諄いほど同じたのみを繰返すのだった。……冬にかかる季節で、旅は幸いと日和に恵まれた。主君の供で江戸までは出たことがある、けれど江戸から西は初めての道だった、名のみ聞いていた名所旧跡の数かず、野山のたたずまいも、宿じゅく町々の風俗も、すべてが珍らしく、旅情を慰めて呉れるように思えた。
おかやは考えたより足手纏いにならなかった、却って案外なほど役に立ったと云っても嘘ではない。口が利けないのと、物ごとの理解が遅鈍なので、他の用には間に合わぬことが多かったけれど、靱負の身のまわりや牧二郎の世話ぶりには欠けたところがなかった。靱負はここでもまた「もしおかやを伴れて来なかったら」と思うことがしばしばだったのである。
四
松山に着いたのは師走中旬のことだった。予て書信だけ取り交わしていた老職を訪ねると、会うことは会ったが、「無謀なことを」と云いたげな表情を明らさまに示した。
「蒲生家のほかに主取りを致す所存はこざいません」靱負は臆せずにそう云った、「……もし御当家にお召抱えの儀が協いませんければ、御領地の端で百姓をする覚悟でまいりました」