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にっき
日記
宮本 百合子
17 観劇日記(一九二九―一九三〇年)
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,770 字 · 36 页
どうせ書く仕事をしに生れた以上、死んでこの位にはされたい。民衆にこれ丈の印象をのこす作家となりたい。
クラブの廊下にはアジサイや、その他の花の鉢が並べられて居る。プラカートが壁にはってある。「自分のすべての詩をお前に、争闘する階級に与える」そんな文句がある。
列は二列で右にまがると広間の左には空の椅子がいくつか並び、すぐ黒幕の前にマヤコフスキーが横わって居る。棺の左右には赤衛兵が一人ずつ侍立して居る。若い後輩らしい詩人が侍立して居る。
民衆はしずかに、しかし立ちどまらず棺の足許をまわって、彼方の扉から去る。
自分のところで列がきられて止った。棺から並んでマヤコフスキーの大きい靴の裏が目の前に見える。その靴の裏には爪先に裏皮のヘリ止金が打ってあった。ヘリ止め金は左手から棺に向って注がれて居る一台のプロジェクトル〔投光器〕の煌々たる光の下でよく光って居た。散々歩いて、モスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)の歩道ですり磨かれて、ヘリ止金は死んだマヤコフスキーの靴の裏で光ってる。彼は爪先がへるような歩き方をして生きて来たのだ。最後の日にモスク※(濁点付き片仮名ワ、1-7-82)が与えた磨きがヘリ止金から消えぬうち、生活の中から苦しみ、生活の中で死んだのだ。