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きゅうしゅじん

旧主人・芽生

島崎 藤村

島崎藤村『旧主人・芽生』。同一底本的分册已合并为一书。收入:旧主人、芽生、船、岩石の間、並木、刺繍、藁草履、足袋。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,813 字 · 302 页

青空文庫

小児科のことで、隣の広い室には多勢子供の患者が居た。そこには全治する見込の無いものでも世話するとかで、死後は解剖されるという約束で来ているものもあった。晩に来て朝に帰る親達も多かった。

「母さん――母さん――母さん――母さん――ん――」

この叫声は私達の耳について了った。どうかすると、それが歌うように、低い柔な調子に成ることもあった。

友達や親戚のものはかわるがわる見舞に来てくれた。午後に私は皆川医学士に呼ばれて、大きなテエブルの置いてある部屋へ行った。他に人も居なかった。学士は私と相対(さしむかい)に腰掛けて、私に煙草をすすめ自分でもそれを燻(ふか)しながら、医局のものは皆な私の子供のことを気の毒に思うと言って、そのことは病院の日誌にも書き、又、出来得る限りの力を尽しつつあることなぞを話してくれた。その時、学士は独逸(ドイツ)語の医書を私の前に披(ひら)いて、小児の病理に関する一節を私に訳して聞かせた。お房の苦んでいる熱は、腸から来たものではなくて、脳膜炎であること――七歳の今日まで、お房はお房の生き得るかぎりを生きたものであること――こういう宣告が懇切な学士の口唇から出た。