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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

10 その九 覆面屋敷

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,820 字 · 54 页

青空文庫

なぜ風守の暮しぶりが知りたかったか、そのワケを語ってごらん」

覆面の奥にある目がどんなふうに光っているか、光子は顔をあげてそれを見る勇気はなかったが、地上のいかなる物もそれ以上に威力にみちた怖しいものはないことが感じられた。光子は隠すことができなかった。

「風守さまは御病気でもないのに、キチガイにされ座敷牢に押しこめられていらッしゃるときいたからです」

「誰だ。そのようなバカなことを言うた者は?」

「一枝さまです」

「仕様のない小女めが。そして、誰が、なぜ、そういうことをしていると申したのじゃ」

「それはおききいたしません。ただ、母なき子あわれ。母ある子幸あれ、と仰有っただけです」

「ナニ?」

八十三の老人とはいえ、岩のような巨体であった。その岩は、にわかにゆれて、ミズミズしい豪快な音をたてて笑いだした。

「母なき子あわれ。母ある子幸あれ」

老人は大声で復誦して、また一しきり笑いたて、

「多少の詩心はあるとみえる。だが、あさはかな奴らが。以後は小人の言葉にまどわぬがよかろう。じゃが、文彦の姉のそなたに今まで教えておかなかったのが手落ちであろう。改めて、ただいま言いきかせるからよくきくがよい。