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めいじかいか あんごとりもの

明治開化 安吾捕物

坂口 安吾

10 その九 覆面屋敷

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 26,820 字 · 54 页

青空文庫

光子は一枝の言葉が頭にからみついて放れなかった。

「ちょっとでよいから、のぞかせてよ。風守さまのお部屋を」

「ダメ。お部屋どころか、別館の近くへ立寄ってもいけないのよ」

すると一枝はあざわらって、

「そうでしょうよ。牢屋ですもの。しかも……」

一度言葉をきって、益々意地わるく薄笑いしながら、

「風守さまは御病気ではないのでしょう。気が違ってらッしゃるなんてウソなんだわ。健全な風守さまを病気と称して座敷牢へとじこめたイワレは、いかに?」

一枝の目は呪をかける妖婆のように光った。そして、云った。

「母なき子、あわれ。母ある子、幸あれ」

そして、フッと溜息をもらして、光子の傍らから離れ去ったのである。光子の頭にからみついたのは、その最後の呪文のような一句であった。

兄妹とはいえ、兄の風守は母なき子であるし、光子と弟の文彦は母ある子であった。風守の母が死んで、後添いにできたのが光子と文彦だ。異母弟の文彦を後嗣にするため、風守をキチガイ扱いに座敷牢へ閉じこめてしまったのだという世間の噂を光子も小耳にしたことがあった。世間の噂はさほど気にかからなかったが、血をわけたイトコの一枝にこう云われると、鋭い刃物で胸をえぐられたようでもあるし、身体が凍るようでもあった。