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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
しかし人見はわざとその咳を呑みこんでしまった。
「なあに、僕のはたいしたことはないんだよ」
まったく医者が見てくれるたびごと、たいしたことはないというのだが、それが何か物足らないのだけれども、この場合やはり医者がいうようにいうのが恰好だと人見は思ったのだ。そして園という男は変にストイックじみた奴だなと思った。
* * *
紺の上っぱりを着て、古ぼけた手拭で姉さんかぶりをした母が、後ろ向きに店の隅に立って、素麺箱の中をせせりながら、
「またこの寒いにお前どこかに出けるのけえ」
というのを聞き流しにして清逸は家を出た。
夕方だった。道を隔てて眼の前にふさがるように切り立った高い崕の上に、やや黄味を帯びた青空が寒々と冴えて、ガラス板を張りつめたように平らに広がっていた。家の中にいても火種の足りない火鉢にしがみついて、しきりに盗風の忍びこむのに震えていなければならぬ清逸にとっては、屋外の寒さもそう気にならなかったが、とにかく冬が紙一重に逼ってきた山間の空気は針を刺すように身にこたえた。彼は首をすくめ、懐ろ手をしながら、落葉や朽葉とともにぬかるみになった粘土質の県道を、難渋し抜いて孵化場の方へと川沿いを溯っていった。