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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

あっけに取られて、コップを持ったまま見送っている奥さんに胸の中で感謝しながら、渡瀬は玄関を出て往来に立った。

雪はますます降りしきっていたが、渡瀬はどうしても自分の家に帰る気にはなれなかった。薄野薄野という声は、酒を飲みはじめた時から絶えず耳許に聞こえていたけれども、手ごわい邪魔物がいて――熊のような奴だった、そいつは――がっきりと渡瀬を抱きとめた。渡瀬の足はひとりでに白官舎の方に向いた。

「おぬいさん……僕は君を守る……命がけで守るよ……守ってくれなくってもいいって……そんなことをいうのは残酷だ……僕は君みたいな神様をまだ見たことがなかったんだ……何んにも知らなかったんだ……星野って奴はひどいことをしやがる奴だな……あいつのお蔭で俺は、……俺は今日、救われない俺の堕落を見せつけられっちまったんだ。美しいなあおぬいさんは……涙が出るぞ。土下座をして拝みたくならあ……それだのに、今でも俺は、今でも俺は……機会さえあれば、手ごめにしてでも思いがとげたいんだ。俺はいったい、気狂か……けだものか……はははは、けだものがどうしたというんだ。俺だって、おぬいさんくらい美しく生れついて、銀行の重役の家に育って、いい加減から貧乏になってみろ、俺だって今ごろは神様になっているんだ……神様もけだものもあるかい。