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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

お前がお茶でも持ってでた覚えはないかな。の左の方にちょっと眼に立つほどの火傷のあとがあるそうだが……」

おせいはそれを聞くと身がすくむようだった。体がかたくなった。肩が凝りきった時のように、頸筋から背中がこわばって、血のめぐりが鈍く重く五体の奥の方だけを動くようで、それが胸のところを下の方から気味悪るく衝き上げた。眼界がだんだん狭まって、火鉢にかざされた、長い指の先がぶるぶる震えどおしている。皺くちゃな父の両手だけが、切り放したようにぼんやり見えていた。「いつ私はその人に見られていたんだろう」と思うと、怖ろしさと無気味さに気息がとまった。

「お前見たことはないか」

「いいえ」

おせいの眼は父の手から辷り落ちて、膝の上に乗せてある自分の手の方に行った。涙にしとったハンケチを丸めてぎゅっと握りつめているそのかぼそい手も他人の手のようだった。若様が自分の手の間に挾んで、やさしく撫でてくださろうとした手だ。それをむりにふり放した手だ。……涙がはらはらと彼女の眼から新しくこぼれでた。

気まずい沈黙がそのあとに続いた。

いっそ……ああ若様と私とは身分がちがう。

すぐ見棄てられるにきまっている。