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せいざ
星座
有島 武郎
1922(大正11)年5月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页
自分ながらそれが何んの真似だかよく解らなかった。しかしながらかねてからある不安なしにではなく考えていたことが、驀地に近づいてきているような一種の心の圧迫を感じ始めているのは明かだった。自分の研究に一頓挫が来そうな気持がしだいに深まっていった。
園は父の手紙をわざと避けて、他の一通を取り上げてみた。それは絶えて久しい幼友だちの一人から送られたもので、園にとってはこの場合さして興味あるものではなかった。他の一通は書体で星野から来たものであるのが明かだった。園はせわしく封を破って、中から細字で書きこまれてある半紙三枚を取りだした。長い手紙であればあるほどその場合の園には便りが多かった。園は念を入れてその一字一句を読みはじめた。
「皚々たる白雪山川を封じ了んぬ。筆端のおのずから稜峭たるまた已むを得ざるなり」
とそれは書きだしてあった。
「昨夜二更一匹の狗子窓下に来ってしきりに哀啼す。筆硯の妨げらるるを悪んで窓を開きみれば、一望月光裡にあり。寒威惨として揺がず。かの狗子白毛にて黒斑、惶々乎とし屋壁に踞跼し、四肢を側立て、眼を我に挙げ、耳と尾とを動かして訴えてやまず。