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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

何か変ったことがあったのではないかと婆やが尋ねるのに対しても、はっきりしたことは告げ知らせもしないで、自分の部屋に帰ってきたのだった。

不思議なことには……と園がふと思ったほど……自分の部屋は何んの変化もない自分の部屋だった。机の側には婆やのいけておいてくれた炭火がかすかに光っていた。園はいつものとおり、ドアの蔭になっている釘に、外套と帽子とをかけて、本箱の隅におきつけてあるマッチを手探りに取りだしてラムプに灯をともした。机の上には二三通の手紙がおいてあった。その中の一つは明かに父からの手紙だった。園は坐りも得せず、その手紙を取り上げてみた。たしかに父の手蹟に相違なかった。ちびた筆で萎縮したように十一月二十三日と日附がしてあった。それを見るとややあわてたような気持になって、衣嚢の中から電報を取りだして、今度はその日附を調べてみた。十一月二十五日午前九時四十分の発信になっていた。

園は手紙と電報とを机の上に戻しながら始めて座についた。そしてしばらくは手紙を開封することもなく、人さし指を立てて机の小端を軽く押えるように続けさまにたたきながら、じっと眼の前の壁を見つめていた。