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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

園はそれをも快く思った。

「だから今日の英語は休みたいからといって、今朝白官舎を出る時この手紙を頼まれてきたんですが……」

そういいながら園は内衣嚢から星野の手紙を取りだした。取りだしてみると自分の膚の温みがそれに沁みついていたのに気がついた。園はそのまま手紙をおぬいさんに渡すのを躊躇した。そしてそれを手渡しする代りに、そっとちゃぶ台の冷たい板の上においた。

何んの気なしに少しいそがしく手をさしだしたおぬいさんは、園の軽い心変りにちょっと度を失ってみえたが、さしだした手の向きをかえて机の上からすぐ手紙を拾い上げた。すぐ拾い上げはしたが、自分の膚の温みはあの手紙からは消えているなと園は思った。園はそう思った。園は右手の食指に染みついているアニリン染色素をじっと見やった。

おぬいさんは園のいる前で何んの躊躇もなく手紙の封を切った。封筒の片隅を指先で小さくむしっておいて、結いたての日本髪(ごくありきたりの髷だったが、何という名だか園は知らなかった)の根にさした銀の平打の簪を抜いて、その脚でするすると一方を切り開いた。その物慣れた仕草から、星野からの手紙が何通もああして開かれたのだと園に思わせた。