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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

そしてそれを部屋の真中にぶらさがっている不器用な針金の自在鍵にかけながら、

「降られはしなかったけえ」と尋ねた。

「なに」

といったぎりでまた顔を撫でた。と、思いだしたように探りを入れるような大きな眼を母の方にやりながら、

「時雨れた時分にはちょうど先方にいたもんだから何んともなかった」

とつけ加えた。父は一度も清逸の方を見ようとはしない。

札幌のような静かな処に比べてさえ、七里隔たったこの山中は滅入るほど淋しいものだった。ことに日の暮には。千歳川の川音だけが淙々と家のすぐ後ろに聞こえていた。清逸は煮えきらない部屋の空気を身に感じながら、その川音に耳をひかれた。こっちの方から話の糸口を引きだして、父の失敗が気にかけるほどのものではないのを納得させたものだろうか、それとも話の出ないのをいいことにしてうやむやにすましてしまったものだろうかと考えた。久しぶりで戸外に出た父は、むだ話の材料をしこたま持って帰っているに違いない。思出話ばかりを繰り返している反動に、それを一つ一つ持ちだされるのは清逸にはちょっと我慢のできないことらしかった。さらぬだにいらいらしがちな気分と、消耗熱のために我慢が薄くなっているのとで、清逸はそれを恐れた。