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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

その男のことが先生の生れた釧路の方で評判になると、似而非者が五六人できて、北海道をあちこちと歩き廻るようになったんだ。……それに違いない。それにお前は遇ったんだ」

その少年はまだ疑わしそうな顔をしながら黙ってしまった。そしてそこにはもう、その問題をなお追究しようというような生徒はなかった。一同は立ったりいたりして帰り支度にせわしかったから。

柿江はとにかく戸沢が疑わしげながら納得するのを見ると、自分の今まで能弁に話して聞かせていたまったくの作り話がいよいよ本当の出来事のように思えだした。

そこの貧民小学校の教師をして農学校に通う学生の二三人が自炊している事務所を兼ねた一室に来ると、尋常四年を受持っている森村が一人だけ、こわれかかった椅子に腰をかけて、いつでも疲れているような痩せしょびれた小さな顔を上向き加減にして、股火鉢をしていた、干からびた唇を大事そうに結びながら。

煤けたホヤのラムプがそこにも一つの簡単な鉄条の自在鍵にぶら下って、鈍い光を黄色く放っていた。柿江はそれを見ると、ふとまた考えてはならぬものを考えだしてしまっていた。自分だけに向って送ってよこす女の笑顔、自分と女とのほかには侵入者のない部屋、すべてを忘れさす酒、その香い、化粧の香い……そしてそれらのすべてを淫らに包む黄色い夜の燈火。