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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

もう九時が十七分過ぎていた。しかしぐずぐずしていると、他の教師たちがその部屋にはいってくるのは知れている。それは面倒だ。柿江は已むを得ず、

「それじゃ貴様頼むぞ」

と言い残して、留守番の台所口に乱雑に脱ぎ捨ててある教師たちの履物の中から、自分の分を真暗らな中で手さぐりに捜しあてて、戸外に出た。

戸外は寒く真暗らだった。するとそこで柿江は自分の顔がきゅうにあつくなって、酔った時のように赤らんだのを感じた。心臓が音を立てんばかりに強く打ちだしたのを感じた。なるべく生徒の眼に触れぬようにと、生垣に沿うて素早く歩きだしたが、小さな生徒たちの鋭い眼はもちろんそれを見のがしはしなかった。柿江の身のまわりには鈴なりに子供たちがからみついていた。

「ゆんべはおっかなかったよ、先生、酔っぱらいのおやじが、両手を拡げて追ってくるんだもの」

「なあ」

「先生は今夜わしの方へと廻っておくれよ」そのほかいろいろな言葉が一度に、不思議な後ろめたさに興奮している柿江の耳に騒々しく響いてきた。柿江はわざと例のとぼけたような声を取りだして、生徒たちからなるべく早くのがれようと試みつつ、暗い貧乏町の往来に出た。