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せいざ

星座

有島 武郎

1922(大正11)年5月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 118,460 字 · 235 页

青空文庫

本通りの大まがきの方からは、拍子をはずませて打ちだす太鼓の音が、変に肉感と冒険心とをそそりたてて響いてきた。ただ一度の遊興は柿江の心をよけい空想的にして、わずかな光も漏らさない窓のかなたに催されている淫蕩な光景が、必要以上にみだらな色彩をもって思いやられた。彼よりも先に床にあって、彼の方に手をさし延べて彼を誘った女、童貞であるとの彼の正直な告白を聞くと、異常な興味を現わして彼を迎えた女、少しの美しさも持ってはいないが、女であるだけに、柿江がかつて触れてみなかった、皮膚の柔らかさと、滑らかさと、温かさと、匂いとをもって彼を有頂天にした女、……柿江はたんなる肉慾のいかに力強いかを感じはじめねばならなかった。彼は自分が恐ろしくなった。自分がこんなものだとはゆめにも思わなかったのだから。これはいけないとみずからをたしなめながら、すがりつくように左の方の淋しい林檎園を見入ったけれども、それは何んの力にもならなかった。自分の家のことを大急ぎで思いだしてみた。何んの感じもない。白官舎のものたちの思わくを考えてみた。何んの利き目もない。夜学校の教師たる自分の立場を省みてみた。