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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

山本周五郎『春いくたび』。同一底本的分册已合并为一书。收入:春いくたび、だんまり伝九、伝四郎兄妹、峠の手毬唄、初午試合討ち、梟谷物語、武道宵節句。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 页

青空文庫

「いやここにいるのは少しの間だ」

半九郎は安心させるようにいった。

「あとから後援隊が着きさえすれば、いっしょに庄内の方へ進軍する、そうしたら酒田へ送るたよりはいくらでもあるよ」

「後援隊はたくさんくるんですの?」

「たくさんくるよ、今いるだけではこの梟谷をつきやぶるのはむつかしいからね」

「たくさんってどのくらい……」

お糸がそういいかけた時。

たん、たんたん、たーん!

砦のうしろの谷間の方から、ふいにすさまじい銃声が起った。

――土生一族が攻めてきた!

と思った半九郎は、そのまま広場の方へとびだして行った。

「――銃をとれッ」

「――部署につけっ」

号令の声があたりにひびき、霧のなかを隊士たちが右へ行ったり左へ行ったりしていた。

たんたん! たんたんたん※(感嘆符二つ、1-8-75)

銃声はさっき斥候を出してやった山道の方から聞えてくる。半九郎は矢倉の上へのぼって見やった、しかしうずまく霧のためになにものも見えない。

「石岡、一小隊だしてやれ」

「はっ」

「敵がいたら深入りせずにもどるんだ、決して深入りしてはいかんぞ」

一小隊二十名の兵が、霧のなかをつきすすんで行った。