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はるいくたび

春いくたび

山本 周五郎

山本周五郎『春いくたび』。同一底本的分册已合并为一书。收入:春いくたび、だんまり伝九、伝四郎兄妹、峠の手毬唄、初午試合討ち、梟谷物語、武道宵節句。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,094 字 · 142 页

青空文庫

「――聞いていたのか」

「ひるま鉄砲の音を聞いたとき、あたしもうだめなんだと思いました」

半九郎はそっと少女の肩をいだいてやった。

「大丈夫だ、ほんとうに後援隊は三百人くる、明日のうちには着くだろう、私を信じて心をしっかりともっておいで」

「早く酒田へ帰りたいんですの」

「大丈夫だよ」

強くいったが、半九郎の胸はくるしかった。草苅峠を越えて来る後援隊が、はたしてよく土生一族のかこみをつきやぶるだろうか? もし失敗したらどうするか?

――そのときは全滅だ!

ここで全滅しないまでも、全滅の覚悟で敵のなかを庄内へぬけなければならぬ、そのときには足手まといの少女などつれて行けるものではない。

「あら、梟が鳴いていますわ」

お糸がそういった。

砦の裏山から、ほう、ほうという淋しい梟の鳴声がきこえて来た。――お糸はふと、両手をまるく重ねて唇へあてると、

「ほう、ほう、ほう」

とうまく梟の鳴声をまねた。

「よく似ているでしょ?」

そういっていたずらそうに肩をすくめながら笑った。

「こうすると友達だと思って、誘われて鳴くんですの、酒田ではみんなよくこうして遊びますわ」

「私も子供のじぶんして遊んだことがあるよ」