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チュンタオ
春桃
宮本 百合子
「近代文学」2、3号、1946(昭和21)年2、4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,868 字 · 22 页
「じゃ、お前はその人に片附いたのかね?」
「そうじゃないんだよ。いっしょに暮しているだけのことだよ」
「じゃ、お前は今でもまだおれの女房というわけだね?」
「いいえ、わたしは誰の妻でもないんだよ」春桃のこころのうちには、うまく云い表せこそしないが、誰のものでもない春桃の感じがあるのであった。「李茂の夫権意識は激しく動いた。」
「そんなら、ひとがきっと生きている王八(女房をとられた男)と笑うだろう」
「王八」ちょっとふくれた春桃は、しかしやはりおだやかに云った。「金もあり勢力もある人しか、王八になる心配はないんだよ」「今、わたしの体は、わたしのものだよ。わたしのすることが、あなたに恥をかかせることは決してない筈だよ」
李茂は、「一夜の夫妻は百日の情」というけれども、その百日はもう十以上も過ぎた。春桃は一人で住んで仕事を見つけ、手伝いに向高を見つけた。「情愛から云えば、むろん、李茂に対しての方がずっと薄い」春桃が李茂を連れて来たのは、親たちのつき合い仲間への義理や同郷のよしみからであった。「あんたがわたしを女房だと云っても、わたしは云いません」そして、春桃は泣いた。