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しゅんもう

春盲

豊島 与志雄

「人間」1951(昭和26)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,296 字 · 17 页

青空文庫

」

山田は半身を起した。

「黙って酒でも飲むのが一番いい。」

「それでは、わたしはどうすればいいの。」

「一緒に飲むんですね。」

自分から言い出しておいて、山田は眼が覚めたように気付いたのである。一緒に酔っ払ったり、何か愛の保証を求め合ったり、口舌をしたり、それだけが二人の生活だったのか。もうそんなことは乗り超えてる筈ではなかったか。それなら、乗り超えた先に何があるのか。

山田は新らしいものを見るような気持ちで眺めた。彼女の細そりした体躯、薄化粧の顔に長く墨を引いた眉、眼尻でしばしば笑う眼、それから、室の中のこじんまりした調度品、衣桁にかけてある衣類、ぽかぽか火をおこしてある炬燵……。その炬燵に彼女がいつもかじりついているように、山田は彼女の体温に寄り縋ってばかりいたのだ。

酒はたいてい、彼女の手許に用意がしてあった。仕度が出来るまで山用はトランプを借りて独り占いを始めた。執拗に繰り返した。

女とは退屈なものだ。愛情とは退屈なものだ。然しいったい、退屈でないものが世の中に何があるか。山田はいつまでも占いをやめなかった。

「もう宜しいじゃありませんか。」

「いや、思う通りのものが出来るまで、夜通しでも続けます。