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しゅんもう
春盲
豊島 与志雄
「人間」1951(昭和26)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,296 字 · 17 页
然しどこからか天井裏に風が吹き入ってそこで太鼓やバイオリンの胴体みたいな作用をし、大きく鳴り響くのであろうか。または、ぴんと張りつめた薄板のようなものがどこかにあって、それが風に鳴るのであろうか。先ずそんなことしか考えられなかった。いずれ大工さんにでも頼んで調べて貰おう、ということになったが、それが延び延びになっている。
そして或る程度の強さの風が正面から吹きつける場合、白昼でも深夜でも、時を択ばず、天井裏に、ギーイ、ギーイと、音が響くのだった。
山田は眉をひそめた。
「まだなおさないんですか。よく気味わるくありませんね。」
「だって、べつに怪しいこともないんですもの。」
小父さんが、押入の天井板を押し上げて覗いてみたが、どこにも異状はなかったそうである。
「怪しいことがなくったって、あんなところで音がするのは、たしかにへんですよ。」
美津子は眼尻で笑った。
「手を見せてごらんなさい。」
「手……。」
「それ、いつかの……。」
「もういいんです。」
「なおりましたでしょう。天井の音だって、いまになおりますよ。」
彼女は山田の手を執って、その手首を見調べた。もうどこにも斑点はなかった。