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はるかぜのふくまち
春風の吹く町
小川 未明
「台湾日日新報 夕刊」1940(昭和15)年4月7日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,346 字 · 5 页
「おれにも、あんな子供の時分があったのだ。」と、考えると、金さんの目には、人通りのはげしい、油のこげつく臭いが漂う、狭い夕日の当たる町の景色が浮かんでくるのです。足が疲れて歩けないのを、親方が手を引いてくれて、一軒の食べ物屋へ入りました。そこで鶏の肉のご飯を食べた。そのうまかったのが、いまだに忘れられないのでした。
金さんが、正直で、いい人なものだから、店には、いつもお客がありました。故郷の人とも友だちができれば、また学生さんにも友だちができました。お嫁さんをもらえとすすめる人があるけれど、金さんは、まだ早いといって、一人で暮らしていました。金さんは、独りで、考えているのが好きなのです。
「おじさん、金太郎さんの本は、もうなくなったの?」
ある日、良ちゃんが、聞きました。どこか本の下になったのでしょう。
「ありませんか。」と、金さんは、下りて、さがしてやりました。
「僕、昨夜、金太郎さんの夢を見たから、飛んできたんだよ。」と、良ちゃんは、一人でした。
「そんなに金太郎さん好きですか。あんたにあげましょう。」と、金さんは、古い絵本を良ちゃんに与えました。良ちゃんは、おどり上がるようにして、喜んで帰りました。