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はるかぜのふくまち
春風の吹く町
小川 未明
「台湾日日新報 夕刊」1940(昭和15)年4月7日
N3 · 进阶 · 新字新假名 · 2,346 字 · 5 页
金さんは、幼い時分から、親方に育てられて、両親を知りませんでした。らんの花の香る南の支那の町を、歩きまわって、日本へ渡ってきたのは、十二、三のころでした。街はずれの空き地で、黒い支那服を着た親方は、太い鉄棒をぶんぶんと振りまわしたり、それを空へ高く投げ上げて、上手に受け取ったり、また、片方の茶わんに隠した、赤や白の玉を、別の茶わんへかけ声一つでうつしたりして、群がる人たちにみせていました。また、金さんは、でんぐり返りをしたり、逆立ちをしながら、茶わんの中の水を飲んでみせたのでした。親方は、日本はいいところだといっていました。
ある日のこと、急に気分が悪いといって、親方は宿へ帰ると床につきました。金さんは、どんなに心細く感じたでしょう。お薬を買いにいったり、氷で頭を冷やしたりして、小さい子供の力で、できるだけ看病をしました。親方は、しわの寄った目じりに、涙をためて、
「おまえのことは、さっき、よく宿の人に頼んでおいた。日本の人は、困ったものを見殺しにしない。私が、もし死んだら、おまえは、正直に働いて、日本を自分の生まれた国と思って、永く暮らすがいい。