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きのう・きょう・あす

昨日・今日・明日

織田 作之助

「キング 三月号」1946(昭和21)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 12,018 字 · 24 页

青空文庫

それが、父一人子一人の、久し振りの挨拶だった。

「荷物はそれだけか」

「少ないでしょう?」

「いや、多い。多すぎる。どうも近所に体裁が悪いよ。もっとも近所といっても、焼跡ばかしだが……」

「そう言われるだろうと思って、大阪駅の浮浪者に、毛布だとか米だとかパンだとか、相当くれてやって来たんですよ」

「ほう、そいつは殊勝だ」

「もっとも市電がなかったので、背中の荷を軽くしなければ焼跡を歩いて帰れませんからね」

「そんなことだろうと思ったよ。しかし、ついでにそのトランクもくれてやって来たのなら、なお良かったんだが……」

「いや、これはだめですよ。こりゃ僕のじゃありませんからね」

「じゃ、誰のだ」

「あはは……」

「変な笑い方をするなよ。あはは……。何だか胸に一物、背中に荷物ってとこかな。あはは……」

「あはは……」

父子は愉快そうに笑っていた。

丁度その頃、赤井は南炭屋町の焼跡にしょんぼり佇んでいた。

かつて、わが家のあったのは、この路地の中だと、さすがに見当はついたが、しかし、わが家の姿は勿論、妻や子の姿は、どこへ消えてしまったのか、まるで見当がつかなかった。

眼の底が次第に白く更け、白い風が白く走る寒々とした焼跡に、赤井はちょぼんと佇んでいたが、やがてとぼとぼと歩きだした。