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ひるのはなび

昼の花火

山川 方夫

「三田文学 第四七三巻第一号」三田文学会、1953(昭和28)年3月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,030 字 · 15 页

青空文庫

この一年間、彼は花火の夕にとった姿勢のまま、女とつきあってきていた。強いて自分を抑えたのでも、その逆でもなかったのだが、何故か手ひとつ握ろうという気にならなかった。二人の距離は、いつも同じだった。だが、彼は、ようやくその満足に倦いてきていた。

しかし、いま女の示したその期限は、急に、彼を得体の知れぬ幸福に火照るような気持ちにした。女といっしょにいることの幸福を、彼は、かつてこんなに深く、たしかなものとして感じたことはなかった。

奇妙な安らぎと、充実とが、彼に来ていた。期限の意識が、慣れて見失いかけていた女の存在を、よみがえらせたのだろうか。それとも、これは狡猾な解放のよろこびなのだろうか。

「お祝い、あげてもいいの」

女の耳のうしろを括っている、木目の浮いた紺のタフタを、目でたどりながら彼はいった。

答えはない。

微笑をつくりつけたまま凝固したような女の頬は、白粉が浮いて、一瞬、ひどく醜かった。

醜い。――しかし、かつてこれほど親身に女の肌を感じた記憶はない。彼女への愛を、素直に信じられた記憶もない。

だが、彼には、このまま深入りも仲違いもせず、秋の別離を迎えるだろう、そういう自分たちがわかっていた。