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ときのかんねんとエントロピーならびにプロバビリティ
時の観念とエントロピーならびにプロバビリティ
寺田 寅彦
「理学会」1917(大正6)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,111 字 · 9 页
しかし実際このような時計があったとしても、それが吾人の日常普通の目的に適当したものではないかもしれぬ。第一に種々の個体の集団からできた一つの系を考える時、その個体各個のエントロピーの時計の歩調は必ずしも系全体のものの歩調と一致しない。従って個体相互の間で「同時」という事がよほど複雑な非常識的なものになってしまう。しかしそこにまたこの時計の妙味もあるのである。譬喩を引けば浦島太郎が竜宮の一年はこの世界の十年に当たるというような空想や、五十年の人生を刹那に縮めて嘗め尽くすというような言葉の意味を、つまり「このエントロピーの時計で測った時の経過と普通の時計と比べて一年と十年また五十年と一瞬とに当たる」と説明すればよいかもしれぬ。これはただ通俗的な譬喩に過ぎないが、とにかく心理的に感ずる時の長短が人間自身ならびに周囲の物質的エントロピーの増加の多少と、いくぶんか相応じるように見えるのは興味のある事である。冬眠の状態にある蛙が半年の間に増大させるエントロピーの量は、覚醒期間のそれに比べて著しく少ないに相違ない。
次にエントロピーは一つの系全体にわたる積分として与えらるる性質のものであって、それが指定されても系を組織する各個体の現状は指定されない。