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ばんか
晩夏
堀 辰雄
「婦人公論」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,249 字 · 27 页
知れない。そういう山奥で夏だけ過ごすのは最初は随分不自由だろうが、それを忍んで、其処を彼等の流儀で馴らしてしまう。そんなところが私の心を惹くと見える。……
旅の途中、二人分の簡単な身のまわりの物だけ詰めこんできた例のラケット入れは相当重くなったが、そんなものを女に持たせるのはどうかと思うので、最初のうちは自分でいかにも颯爽と持って歩いたが、すぐへたばってしまった。で、ときどき妻に持って貰って、人なかに出るときは急いで私が持ち換えたりした。そして私が痩せ我慢をしいしい歩いているのを、妻は側で心配そうに見ていた。そんな私達二人の旅だから、いくら慾張った旅程を立てておいたところで、何処まで往けるか知れたものだった。……
*
乗合で野尻湖に向う途中、真白い蕎麦の花の咲いた畑の間で、もう引き上げて来る外人の荷物を積み込んだ荷馬車とすれちがった。どうせもう夏も過ぎた事だから、すっかり寥れているだろうが、人に訊いてきたレエクサイド・ホテルとか云う、外人相手の小さなホテルだけでも明いていて呉れればいいが――と思って、湖畔で乗合から降り、船の発着所まで往って、船頭らしいものを捉えて訊くと、