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ばんか
晩夏
堀 辰雄
「婦人公論」1940(昭和15)年9月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,249 字 · 27 页
「さあ、レエクサイドはどうかな?」と不承不承に立って、南の方の外人部落らしい、赤だの、緑だのの屋根の見える湖岸を見やっていたが、
「あの一番はずれに見える屋根がホテルだがね、まだ旗が出ているようだから、やってましょう。――お往きなさるかい?」
私達はすこし心細そうに顔を見交していた。が、せっかく此処まで来たのだから、その前まで往くだけでも往って見ようと、六人ぐらいは乗れそうな、旧式のモオタア船にちょこんと二人だけ乗った。
湖水は静かだった。絵はがきによくあるヨットは一隻も出ていなかった。私達を載せたモオタア船だけが湖上にあって、水の面にガソリンの臭を漂わせながら、いやにエンジンの音を立て続けている。――漸く外人部落が目なかいに見えて来、その一番はずれには、なるほど赤い屋根の建物があって、その上には赤い旗がばたばたやっているのが認められ出した。
モオタア船から上って、坂を登り切ると、すぐそれが分かった。レエクサイド・ホテルと云うからには、もう少し洒落た家かと思っていたら、なんの事はない、――丸木作りの、いとも粗末なバンガロオだった。私達は再び顔を見交した。