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あんごうすうじ
暗号数字
海野 十三
「現代」大日本雄辯會講談社、1938(昭和13)年3月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,312 字 · 39 页
あと一時間半ばかりあった。
帆村は公衆電話函を出ると、急に酒がのみたくなった。
あまり時間はないが、こうふらふらでは仕方がない。ことにこれから空の旅路である。ぜひ一杯ひっかけてゆきたい。そう思った彼は、新世界をぐるぐるまわりながら、酒ののめるところを物色した。
あとで聞くと、それは軍艦横丁という路次だったそうであるが、そこに東京には珍らしい陽気なおでん屋が軒をならべていた。若い女が五、六人、真赤な着物を着て、おでんの入った鍋の向うに坐り、じゃんじゃかじゃんじゃかと三味線をひっぱたくのである。客も入っていないのに、彼女たちは大きな声で卑猥な歌をうたう。この暑いのにおでんでもあるまいとは思ったが、その屈托のなさそうな三味線の音が帆村の心をうったらしく、彼はそこへ入って酒を所望した。
それから後のことは、帆村の名誉のために記したくない。とにかくその日の夜十時になって彼は転げこむように大阪駅に入っていった。
「富山へ行くんだ。一つ切符をどうぞ」
彼はまだ呂律のまわらぬ舌で、切符売場の窓口にからみついた。ひどく飲みつづけていたらしい。飛行機なんか、もうとっくの昔に乗りおくれてしまっている。