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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
「お釣銭はお前に遣る」
と云ううちに帽子を掴んで表に飛び出しかけたが又立ち止まってボーイを振り返った。
「俺が今喰った……その四皿の料理はスープとハムエッグスと黒麺麭と珈琲だったナ……ウイスキー入りの……」
「ハイ……貴方が御註文なすったんです」
ボーイは叱られるのを待っているような顔をした。
「よし。この家には電話があるか」
「御座います」
「数寄屋橋タキシーに電話をかけて早いのを一台大至急でここへ……」
「タキシーなら一軒隣りに二台あります」
私はその声を半分階段の途中で聞きながら表へ飛び出した。ボーイが指した方向の一軒隣りに駈け付けて、たった今帰って来たばかりの新フォードに飛び乗ると、ニキビだらけの運転手に五円札を二枚握らした。
「新宿駅まで……全速力だぞ……車内照明を点けないで……」
運転手は札を握ったまま恨めしそうに振り返った。
「この頃はルーム点けないと八釜しいんです。直ぐに赤自動自転車が追っかけて来るんです」
「構わない……俺は警視庁と心安いんだ……」
話が又、少々傍道へ這入るようであるが、しかしここでちょっと脱線を許してもらわないと、話の筋道が無意味になりそうだから止むを得ない。