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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

蛇紋石を刻み込んだ黄金の屋根に黄金の柱で希臘風の神殿を象り、柱の間を分厚いフリント硝子で張り詰めた奥には、七宝細工の文字板と、指針があって、その下の白大理石の床の上には水銀を並々と湛えたデアボロ型の硝子振子が悠々閑々と廻転している。

それからもう一つは、大机の書架の前に置かれた紫檀の小机の上に置かれた白い頭蓋骨である。この髑髏は多分標本屋から買って来たものであろうが、前の二品ほどの価格はないにきまっている。けれどもその黒い左右の眼窩が、右正面の裸体美人の画像を睨み付けて、室中に一種悽愴たる気分を漲らしている魔力に至っては他の二つのものの及ぶところでない。否……彼の裸体美人も黄金の神殿型の時計も、この頭蓋骨の凹んだ眼に白眼まれて、初めて、これだけの深刻な気分を出し得たものと考うべきであろう。どんな気の強い人間でも、この室に暫く居たならばきっとこの神秘的なような俗悪なような、変てこな気分に影響されずにはいられないであろうと思われるくらいである。

しかし生れつき皮肉な私の眼は、こんな風にしてこの室の変化に驚きながらも、この時既に、凡ての飾り付けの中に多くの胡麻化しがある事を発見していた。