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ダーク・ミニスター

暗黒公使

夢野 久作

「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页

青空文庫

折角ここまで押し詰めて来た張り合いが、一時にパンクしてしまって、又もふらふらと前にノメリ倒れそうな気がした。それを窓の框に手をかけてやっと我慢しつつ、もう一度背後の闇を見まわした。誰か見ているような気がしたので……。

……しかし……最早こうなっては取り返しが付かない。室の中の二人の素振りと会話の模様によってもう一度、判断を建てかえて行くよりほかに方法はない……と思い返すと又も、室の中の光景を一心に覗き込んだ。……何という難解な……不思議な事件であろう……と心の奥底で溜息をおののかせながら……。

……と……やがてストーン氏は伏せていた眼を見開いた。大きな、青い、ぎょろっとした眼だ。それからハンカチを取り出して額の上の汗を拭き終ると、女の顔に眼を据えた。女はストーン氏の偉大な体格に圧倒されて、いくらか小さくなっているようであったが、硝子窓の外からは聞えぬくらい微かな、弱々しい声で、

「……どうぞ……」

と珈琲をすすめた。ストーン氏はいくらか遠慮勝ちに、

「……ハーイ……アリガト……ゴダイマス……」

と怪し気な日本語で会釈して、巨大な手で赤い小さな百合形の皿を抱えたが、それでも咽喉が乾いていたと見えて美味そうに啜り込んだ。