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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
女は立ってまた一杯注いで角砂糖を添えた。
ストーン氏は謹んで会釈した。
私はちょっとの間変に可笑しくなった。この場合に似合わしくない話だけれども事実であった。何だかお伽話にある獅子の王様が、狐に嘲弄われている芝居を見るような気がしたからである。けれどもまた、すぐに真面目に返って、二人の言葉を一句も聞き洩らすまいと耳を引っ立てた。
ストーン氏は引き続いて日本語で話し初めた。
「貴方のお家は大変わかりませんね。私は一時間、この村を……町を歩きました。この村は……町は大変広い町です」
「折角お出で下さいましたのに生憎留守でございまして……」
女の声は何となく力がない……響のない声のように思えた。幾分固くなっているせいでもあろうか。けれどもその容色に相応しい優美な口調ではあった。
「いいえ。どう致しまして、お留守ならば仕方がありませぬ。その代り私はこの室で休む事が出来ました。今日は大変忙しかったのです。けれども貴女には済みませんでしたね」
ストーン氏の日本語は思ったより巧くなって来た。どこで稽古したものか知らぬが、二年や三年の稽古ではこんなにハッキリした巧い調子に行くものでない。