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ダーク・ミニスター
暗黒公使
夢野 久作
「新作探偵小説全集 全九巻」1933(昭和8)年1月15日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 214,561 字 · 420 页
その靴の踵の処と、爪先の処に両方とも、普通と違った赤い色の土が、極く細かな線になってこびり付いていた。
「……うん……赤煉瓦の水溜りだね。あそこの家の……」
と云いながら私はうなずいた。
「……だろうと思うんですが……他の処にはないようですから……」
私はもう一度深くうなずいた。
すると殆んど同時に入口の扉が開いて金丸刑事が帰って来たが、汗を拭き拭き私に一枚の名刺を渡した。それは女持ちの小型なアイボリー紙で上等のインキで小さく田中春と印刷してある。それを受け取るとすぐに鼻に当ててみたが思わずニッコリ笑った。すると飯村は、それを冗談とでも思ったのか一緒になって笑い出した。
「いや銀行でも弱ったんです。私が女の事を貴下にお話しているうちに、若い行員どもが、引っ切りなしにゲラゲラ笑うんで困りました」
私は事件の緒がいよいよハッキリと付いて来たので急に気が浮き浮きして来た。
「ああ。いい臭いだ。おれが犬なら直ぐに女を探し出すんだがなあ。……こんな時にスコットランドヤードの探偵犬が居るといいんだがなあ」
この時に杉川医師も階下から上って来た。
「ボーイがやっと意識を回復したようですが。