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あらしのなか

暴風雨の中

山本 周五郎

「週刊朝日新秋読物号」朝日新聞出版、1952(昭和27)年9月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,339 字 · 30 页

青空文庫

もっと大きくなれば、この家はたぶんぶっ倒れるか、水に掠われるかするだろうぜ」

「じゃあなぜ逃げねえんだ、そうとわかっていて、なぜ逃げるくふうをしねえんだ」

三之助はからかうような眼で男を見た。

「おめえを威かしたってしようがねえ」三之助は云った、「威かすつもりなんぞこれっぽっちもありゃあしねえ、おれが此処にいるのは、この家がぶっ倒れるか、水に掠われるかするだろうと思ったからだ」

「なんだって」

「聞き返すこたあねえや、その暇におめえやることがあるんだろう、やることがあって此処へ来たんだろう、そうじゃあねえのか」

男の眼が絞るように細くなった。その眼ですばやく、三之助の顔を見やった。風がどっと襲いかかり、家ぜんたいが揺れた。裏手のほうでどこかの板のひき裂ける音がし、なにかが庇をぎしぎしと擦った。その聞き馴れない音に続いて、また板の裂ける音がし、そのまま咆えたける風雨のためにかき消された。

「おれが、なにをしに来たって」

「待つことはねえってんだ」三之助が云った、「おめえがなにをしに来たかは初めからわかってる、入って来たときのおめえの身ごなしと眼つきで、おれにゃあすぐわかったんだ」